2018年7月16日
コペンハーゲン大学心理学科で、
特別な才能をもった子ども達による多様で創造的な学習プロジェクトという研究に従事している一方で、デンマークの教育や社会のあり方からより豊かで幸せな学び・仕事・生き方を見つめるサービスを提供しているHappiness Catalyst(happiness-catalyst.com)の共同代表でもある
海野歩未さん。
以前お話しを伺う機会があり、誠実に淡々と本質を語られるご講演にもっとお話しを伺いたい!
と強く感じ、今回のインタビューをお願いしました。
海野歩未さん
<デンマークの子どもと日本の子ども>
海野さん:わたしのかつての研究のおはなしをちょっとしますね。
教科に限らず、「なんでも良いので自分の得意なところで他の人に役に立つことを学校生活の中でやってみてください」という研究をしたところ、人から助けてもらった子ども達だけではなく、人の役に立つことをした子ども、両方の自尊心が高まるという結果がでました。
それだけではなく認知能力も高まったんですね。
皆川:“認知能力”とは具体的にいうとどういうことでしょう?
海野さん:具体的にはメタ認知と言います。学習を自ら進めるにあたって課題が何なのか、どういった課題なのか、その課題を解決するにはどういう方法をとればいいのか、
また、自分が課題をやっているプロセスを客観的にモニタリングしたり、結果に対してどのように評価するのか、次の課題に対してどのように活かすのか等、課題解決や学習を効果的に進める上で重要な能力のこと。
そういった能力が全般的に伸びたんです。
皆川:これはすごく根源的な、すばらしいことですよね。
海野さん:そうですね。
そして研究のひとつとして、デンマークの子どもと日本の子どもを比べたんです。
面白かったのがデンマークの子どもに得意な事って何をしたんだろうと一人ひとり見てみたら
デンマークの子どもはすごくユニークで
例えば、私は服のコーディネートが得意だから次の日の天気に合わせてどういう服装をすればよいかをクラスメイトにアドバイスする、とか
サッカーのゲームの面白い見方や解説ができるのでそのアドバイスをする
みたいな、すごく一人ひとりユニークなんですよね、自分が得意だと思っていることが。
それに対して日本の子どもたちはどういうことをしたかっていうのを見てみると
落とし物をひろうとか、朝来て、窓をあけるとか今ひとつユニークさに欠けるというか。
多分、学校でこういうことすると褒められているんだろうなっていうことを皆一様にやったり書いたりしていたんですね。
本当にその子にとって得意なことよりも、学校生活で模範的なことをすると褒められることが、自分ができること(能力)っていうふうに擦りこまれているのか信じているのかはわからないですけれど、
日本の子どもの特徴的なところが見えたなと思っているのですけどね。
皆川 :今の日本では、その子の奥に隠れている世界観よりも、表に現れている行動を見る傾向があります。デンマークの子たちは既に人の内側=心に注目するということができているってすごいですよね!!
なぜそれができるのでしょうか?
何も習っていないのに…
起業家が考え方の原点にしている、自分オリジナルな才能部分をみんな自分でわかっているというのはすごいですね。
海野さん:小さい頃から自分の考えやアイデアや口に出した時に周りの大人の反応が日本とは違うんですよね。
日本の大人はジャッジしてしまいがちで、
「それいいね!」「よくできたね!」「すごいね!」みたいなことを言いがちです。
でもデンマークではそういう評価につながるようなコメントはあまり言わないです。
「あなたはこういうことに興味があるんだね」、「こういうことをしたんだね」とただ受け止めるか
「どうしてそういう風に思ったの?」と、話をもっと深める、
その子の考えに興味を持って聞き出すことをしています。
だから子どもたちはこれをやったら褒められる、大人が喜ぶという価値水準で物事を進めていくのではなく、自分が好きなことを純粋にどんどん深めていく。
そういうことを対話のプロセスの中で進めていくのだろうなと思っているんです。
皆川:スーパーで駄々をこねる子どもにも、とことんつきあうという話を先日伺いました。
デンマークでも床にねころがって、「チョコレート〜〜〜!!買って〜〜〜〜〜!」
と泣き叫ぶ子はいる。(笑)
でも大人でも時間があるので(家族全員5時くらいには帰って来る)、いちいちそれに付き合う。「どうしてそのチョコなの?」「なんで今ほしいの?」「そのチョコじゃあなきゃダメなの?」
一緒に座り込んで徹底討論をする。
それは幼少期から自分の考えを説明する訓練になり、会話のプロセスに注目がある、
とおっしゃってました。
海野さん:日本はそういう時間はムダとしていますよね、
子どもとのそういう会話にあまり重きを置いていない、取りあえずその場では我慢させないといけないとか、周りの目を気にしてしまうから。親が忙しくてそんな時間をもっていられないというのも理由として大きいでしょう。
デンマーク人はそういった一見ムダそうな時間や余裕をたくさん持っていて、
それが精神的に豊かな部分であるのだろうと思います。
最終的にはそういった部分がその子の思考にすごく影響を与える。物事を論理的に考えるとか、違う見方を受け入れたり、異なる意見をもった他者とうまく交渉したり、自分の中で折り合いをつけるといった力が育っていくんだろうなと思います。
<不登校児について>
皆川:日本では不登校児が35人にひとりで過去最多になっています。
一昔前の不登校は、勉強についていけない、いじめがある、健康上の理由などはっきりしたある種わかりやすい理由がありました。
今の不登校は、明るくて、友達も多い、リーダー格で、学習面も問題ない、
そういう子たちが多いです。
本人も理由が説明できない。
でも重大な違和感があるのです。
学校のヒエラルキーが理解できない、納得いかないこと(例えば教科書写しとか、自分の気持ちには関係なく休み時間は外へでて遊ばないといけないなど)をさせられたり、
どちらかというと<そういう場>に違和感を持つ子供が多いようです。
「学校は行くもんだから」についていけない子どもたちは、
先生側から見ると、無気力な子達と言われます、でも実際は違います。
言っても理解してもらえないので、言わない、➡︎だから先生には気持ちが伝わらない➡︎無気力と解釈されている、というのが子どもたちの真実ではないかと日々ご相談を受けていて感じます。
海野さん:繊細な子たちは日本の学校にいけないですよね。
あの学校という独特の文化はちょっときついですよね。
不登校は本当にチャンスだと思います。この子は既存の学校システムの中では育まれることが難しい、他の子ども達がもっていない特別な才能をもっている子なんだっていう兆候のひとつと、わたしはこれまでたくさんのオモシロイ子ども達を見てきて思います。
皆川:わたしもそう思います。問題行動ほど人と違うって証なので。
海野さん:不登校の子は時間がいっぱいあるからそういう意味でもチャンスなんです。
皆川:「不登校はチャンス!」HPのヘッダーそれにしようかな。(笑)
そういう立ち位置に立てたら人生を幸せに生きるという課題はクリアしたも同然ですね(笑)。
いかにして固執している立ち位置から視点をかえるかという。
海野さん:あの学校教育に合わないってことは新しいものを生み出してこの社会をひっぱっていく人材になる可能性が大いにあるんだってことが早い段階でわかったということだから。もう、その子の好きなこと得意・特異なことをどんどんやらせて、同時に責任も教えて大人はもうそれを見守るだけなんだけど。
これまでに作られた型を習得してアウトプットしたり、よりよくしていく人材も大事です。一方で、イノベーションは日本が多様性のある社会を生き抜く上でさらに重要です。そして、それは特別な人達の他にはない才能と誰も思いつかなかったアイディアで生まれるんだと思います。
皆川:デンマークの子供たちのように自分を解放することができたら、又人はみな違うんだということをすべての人が認めていたら、不登校の問題は解決しちゃいますね。
海野さん:日本では、(親が)子どもに教育を受けさせる義務はあるけれど、子どもが学校に行く義務はないので、学校に行かないと決めたのであればそれだけたくさん時間がありますよね。ちょっとベクトルを変えて自分の好きなこととか興味があることに物凄いエネルギーを投資したらどうかなと思うんですけど。
どうなんでしょう。
学校にこだわるのはやめて。
皆川:「普通と違う」ことにはなぜか恐れがでますね。でもそれは悲観的なんだ、というより、基本的に日本では老後が保証されていないということと根っこがつながると思うんです。
子ども達はもはや年金に期待できなそうだ、と心のなかで誰もが思っています。老後何かあっても生きていくには安定した職業につかないと、どうやっても貯金をしていかなければ、という気持ちが根底にあるので、なかなかにチャレンジしようという思想になるのは難しいのかもしれません。
デンマークは税金がべらぼうに高くいけれども、学校無料、医療無料、大学無料で子どもの自立援助のお金も出る、生活の根底の支えがしっかりしていて、国家に対する信頼がありますよね。
<海野あゆみさんプロフィール>
コペンハーゲン大学(心理学博士)
Happyness Catalyst共同代表
長年、神経発達症などの特別なニーズのある子どもの教育的支援の在り方に関する研究に取り組むとともに、本人達や家族へのサポートに携わってきた。その後デンマークでの経験を元に、余裕と余白のある教育・社会システムや、子ども達がスクスク育ち、大人がイキイキと仕事をし、異なる人々が違いを乗り越えて支え合うことで生活を豊かにできる成熟した社会のあり方や人々の心の在り方について考えるようになる。
Neurodiversity(ニューロダイバーシティ:神経学的多様性)という概念の元、
子どもがその子の特異なことを強みとして発揮し伸ばし自信をもつことが可能な
教育的環境やアプローチについての研究に従事し、
多様な個がもつその力を資産として捉え尊重し生かす社会システムに向けたプロジェクトを進めている。これからの社会のイノベーション人材となるおもしろい子どもや、かなり変わった人の驚異的な個性・アイディア・能力に、学校・企業・社会がどのように適応できるか考察している。