コラムColumn

世界幸福NO.1デンマークの子育てから学ぶ

特別インタビュー コペンハーゲン大学(心理学博士)海野あゆみさんに聞く② デンマーク人のあり方・人間関係

2018年7月19日

➡インタビュー①をお読みになっていない方はこちらからどうぞ。

皆川:①ではデンマークと日本のの子育て観の違いについて伺いました。
今回はデンマーク社会ってどんなメンタリティで機能しているの?
そこを伺いたいと思います。

 

海野さん:私はもともと特別支援の分野で研究をしてきてコペンハーゲン大学での新しいプロジェクトもユニークな子やおもしろいどもを対象にしようと思っています。

きっと彼らのアイデアは私たちが想像できないような
面白いものが出てくるじゃないかと思って期待しているんです。

 

海野さん:こういう子どもたち、本当に面白いですよね。
私たちの想像を超える世界と他の人がもっていない能力をもっているので。


皆川:私も、この子たち(HSC
や発達に凸凹がある子)が
日本の中で才能を発揮できれば日本まだまだ全然平気だって思うんです。

この間のセミナーでは幼稚園のことや小学校のこともお話されていましたが、
小学校入学からして年齢がバラバラなんですよ、っていうこともおっしゃっていましたよね。

 

海野さん:一人ひとりのニーズ、学び方やそのスピード、やり方が違うということをみんな承知しているので。みんなに遅れたらっていう心配をしていない。

むしろ他の人と違うっていうのはその子の強みであるしアイデアであるし
物凄いチカラになる可能性でもあるんじゃないかって
教育に携わっている人と話をするとなりますね。

 

皆川:これってデンマークでは昔からそうだったんですか?

 

海野さん:デンマークの哲学者・教育者の考えがこの国の“人を育てるとはどういうことか”に大きく影響しているようなんです。

ただ、話をきくとやっぱり1970年代とか60年代以前は保守的な制度や考え方があったようなんですが、若者を中心とした社会運動によって、
個人の権利と自由、男女平等、環境保護、障害者や移民といった
マイノリティの権利の獲得と制度の変革があったようです。

また、デンマークって小さい国なので他の国と対等にやっていくには
他の国でやっていないことをやらないと競争できないっていう事に気づいたみたいなんですよね。

デンマーク独自のやり方やおもしろいアイデアや人材を育てることが
国や社会の発展には重要だという考えも相まって、
1980年代90年代から社会や制度が急速に変わっていったと聞きます。

皆川:ものすごい早い成果ですよね。たったの2〜30年?

海野さん:そうですね。小さい国なので身動きとりやすいんだと思います。

皆川:80年代ははっきりと記憶にありますが…(笑)
そこから今までで人のメンタリティーが変わるって物凄いことだなと思います。

海野さん:私もこの国はなんでそんなに(急に)変われたんだろうなって思います。

今の70歳代80歳代の人たちはやっぱり昔ながらの日本人的考え方、
女の人は家事をして男の人が働いて、みたいなステレオタイプな考え方で育って生きてきた人が
デンマークにもいて、でもその人達と話をすると
今の時代の新しい生き方も十分理解しているように感じます。

 

 

<デンマーク人の、あり方>

海野さん:なかなか、こう、日本にいると世界が狭いので…。

私も日本にいた時は特別支援の分野に携わっていたので、
「こういう行動特徴の子は自閉症スペクトラムに当てはまるな」とか、
その日本での感覚でデンマークに来ました。
今デンマークで働いていて、周りの人たち日本にいたら絶対発達障害っていわれる人達だらけなような気がするんですよね。

皆川:具体的にはどんなことですか?

海野さん:全然空気読まないですし、言いたいこと言いたいように言うし、時に凄く感情的だし。

日本にいたら、その違いを問題だと指摘されるだろうなっていう人達が沢山いたんです。

文化的なものが大きいのだと思います。一人ひとりが自分のままでいい、
一人ひとりが違うということが本質的に体得できているメンタルがこちらにはあるように思います。

個人が自分の考え方、やり方、感じ方をもっていて、そのままでいて、
仕事したり生活したり家族を持ったり持たなかったりしているのです。

私も日本にいる間はそういう世界がある、違う文化があるんだとか知りませんでした。

例えばこっちにきて自閉症の人や子どもたちっていうのは
日本のようにあまり問題視されていない印象です。
特に知的レベルや言語面でハンデが少ない人は。

あの人たちは集中力や特別な能力があることがあるし、
独特の感覚の世界で生きているよね〜〜っていう感じで周りの人は捉えているようです。

 

それに比べると、日本ではこういった子ども達のことを「気になる子」とオブラードに包んで呼んで、本人たちよりむしろ大人側が問題視して特別なサポートをしなければならないと
捉えているように見えてしまいます。

デンマークでは特別なサポートを必要だと訴える子どもがいて、彼らの学びとウェルビーイングの保障を学校現場でしましょうというスタンスなんです。

皆川:そういう人たちの割合って、日本と変わらないわけですよね?

海野さん:そうです。普段の生活でも一人ひとりがものすごく個性的だし、それを当たり前のこととして誰もが生活していますね。

時々日本に帰って学校の先生とか保護者の話とか聞くと、国や文化が違うと「問題だ、心配だ」と捉えられることもあれば、「そういう人やそういうこともあるよね、で?」って捉えられることもあるんだなぁと思っちゃいますね。

皆川:世界を広げるためにはデンマークに行くしかないですか?(笑)

海野さん:笑。どうなんでしょう、来てみてもいいかもしれないですね!

実際にデンマークの児童、それから青年達とかかわって彼らの物事の見方や一人ひとりの考え方に触れることができます。そして、大人にもかかわると、こんな風に成長するんだなっていうのがすごく見ていてわかりますし。

日本の子どもたち、自分が今いるすごく狭い世界にこだわっちゃたり、その世界が全てだと思ってしまっているところがすごくもったいない、そこで悩む時間がもったいないなと思います。そういう観念にさせてしまう社会の方に問題があるんですけどね。でも社会を変えるより、自分が動き出す方が早い。

 

皆川:是非そのことをお話していただきたいし、それをうかがってやっぱりデンマーク行っちゃおうツアーを組みたいなって思いました(笑)

 

海野さん:デンマークって他の国には見られないすごく特別なものが沢山あるんですけど、だからといってここに住んでいる人たちが何か特別なことをしている訳ではない気がします。

当たり前のことをごく自然にやっている。

時々教育現場の方たちが視察で来られて、3日ほどで帰られるとちょっとがっかりして帰るパターンが多いんですよね。(笑)

北欧の教育って進んでいて特別なメソッドをやってるんじゃないかとか、特別なアイデアをもってるんじゃないかとか、それを得るために来たんだけれど、ちょっと来てみるだけでは本当のデンマークのよさわからないんですよね。
やっぱり日々の生活の中でここに住んでいる人たちがどういうふうに人と接するのかとか、
どういう風に物事を捉えているのかとか、子どもを信頼して見守る姿とか、
ある程度時間をかけないとわからない。

日本人は忙しいので瞬発的にはなかなかわからないですよね。

 

3につづく

 

 

<海野あゆみさんプロフィール>

コペンハーゲン大学(心理学博士)

Happyness Catalyst共同代表

長年、神経発達症などの特別なニーズのある子どもの教育的支援の在り方に関する研究に取り組むとともに、本人達や家族へのサポートに携わってきた。その後デンマークでの経験を元に、余裕と余白のある教育・社会システムや、子ども達がスクスク育ち、大人がイキイキと仕事をし、異なる人々が違いを乗り越えて支え合うことで生活を豊かにできる成熟した社会のあり方や人々の心の在り方について考えるようになる。

Neurodiversity(ニューロダイバーシティ:神経学的多様性)という概念の元、
子どもがその子の特異なことを強みとして発揮し伸ばし自信をもつことが可能な
教育的環境やアプローチについての研究に従事し、
多様な個がもつその力を資産として捉え尊重し生かす社会システムに向けたプロジェクトを進めている。これからの社会のイノベーション人材となるおもしろい子どもや、かなり変わった人の驚異的な個性・アイディア・能力に、学校・企業・社会がどのように適応できるか考察している。

 

関連記事